精神科病院の入院制度について

精神疾患,相談ノウハウ

精神疾患(あるいはその疑い)のある家族に、精神科病院で入院治療を受けさせたいと思っているが、保健所や病院からは「本人の同意がないと難しい」と言われて、先に進みません。

はじめに、精神科病院の入院制度については、主に、①「任意入院」、②「医療保護入院」、③「措置入院」の三つがあります。ここではそれぞれの意味と、現実にどのような運用がされているかについて、お話します。

精神科病院の入院制度 3つ

任意入院とは

患者本人に入院する意思があり、本人の同意のもと入院する場合には、「任意入院」となります。退院については、病状の改善により医師が退院可能と判断した場合、もしくは、患者本人が退院を希望した場合にも退院することができます。

医療保護入院とは

医療と保護のために入院の必要があると判断され、家族等が患者本人の入院に同意する場合、精神保健指定医の診察により、医療保護入院となります。

措置入院とは

2名以上の精神保健指定医の診察により、自分を傷つけたり、他人に危害を加えようとしたりするおそれがあると判断された場合に、都道府県知事の権限により措置入院となります。

(参考;厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」精神科の入院制度について


なお以前からお伝えしていることですが、近年は、精神科病院の入院治療においても「本人の意思」が尊重され、「任意入院」を主流とする病院が増えています。「任意入院」の患者さんを受け入れるほうが、病院側(医療従事者)にとって運営がしやすいというのも、理由のひとつでしょう。そして今では、社会的な制度においても、それを後押しする動きが始まっています。

医療保護入院ができなくなっている!

今年(2022年)3月には、厚生労働省が「「医療保護入院」について、厚生労働省は21日までに、制度の将来的な廃止も視野に入れ、縮小する方向で検討に入った」ことがニュースになりました。その後、厚労省は方針を後退させていますが、現場ではすでに、「医療保護入院」制度の利用に対しては、消極的になっています。

精神科入院、「縮減」も削除 厚労省、さらに方針後退

精神科病院の医師が家族らの同意を得て患者を強制的に入院させる「医療保護入院」制度について、厚生労働省は30日、「将来的な継続を前提とせず」「縮減」との文言を有識者検討会の報告書案から削除した。当初は「将来的な廃止」と盛り込んでいたが、方針をさらに後退させた形だ。日本精神科病院協会(日精協)が反発したことなどが要因とみられる。

引用;2022年5月30日 京都新聞

弊社への相談では、「本人に病識がなく治療の意思がない」ために、「医療保護入院をさせたいが、どうしたらよいか」というご相談が多くあります。しかし、「医療保護入院」の制度を利用するためには、まずは、病院(主治医)や保健所に「医療と保護のために入院の必要がある」と納得してもらえるだけの根拠を、家族が示す必要があります

また、仮に医療保護入院ができたとしても、早期退院が主流の今、入院期間は平均して3か月、長くても半年後には退院を促されます(精神科救急に特化した病院では、入院前から“3か月以内の退院”という確約をとられます)。患者本人が院内の規律を乱すような問題行動を起せば、即退院になることすらあります

問題行動について具体例を挙げると、以下のようなものがあります。

・本人が治療を拒み、服薬を拒否するなどしている

・他者に対する暴言や暴力行為がある

・こだわりが強くクレーマー気質など、院内のルールを守れない

・軽度の発達障害や知的障害(入院しても治療効果がないと思われてしまうため)

・症状が重度かつ慢性化しており、当初から長期入院になるとわかるケース

ただでさえ入院治療のハードルが上がっていたところに、コロナ禍という大打撃がありました。精神科においては、マスク着用の難しい患者がいるなど、コロナ感染への対応は困難を極めます。ただでさえ日々の感染予防に疲弊している医療従事者にとってみれば、上記のような対応の難しい患者に根気よく向き合うだけの余裕はありません。

ハッキリ申し上げてしまうと、患者の増加に対して、精神科の病床が増えるということはないため、ベッドの奪い合いとなる=治療を受けられるのは“病院の言うことを聞く優秀な患者”であり、“対応困難な患者”は排除されるのが現実です。

とはいえ、精神科病院が地域から消えることは(当面は)ないため、家族は根気強く、保健所や医療機関(場合によっては警察)に相談を積み重ねることです

弊社への相談では、患者本人が明らかに精神疾患であることが分かっているにもかかわらず、相談者が「もう少し、本人の様子を見守りたい」「今は自分が○○で忙しいので、落ち着いたら取り組もうと思う」などとおっしゃることがありますが、精神科病院の入院治療へのハードルは、年々、高くなっています。ご家族には、残された時間が少ないことを肝に銘じ、航海のないよう動いていただきたいと切に願います。

◎弊社のノウハウについては、note(外部サイト)でも配信しています。

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