精神科受診を拒否する家族への対応、精神科に連れて行くには

精神疾患,相談ノウハウ
家族が精神疾患(あるいはその疑い)だが、精神科病院の受診を勧めても、拒否されています。どうやって受診の説得をすればよいですか。

なぜ精神科受診を拒否するのか

まず精神疾患の特性として、病識を持ちづらいことが挙げられます。病識とは、「自分が病気である」という認識のことです。発症して間もない時期であればともかく、未治療のまま時間が経過したケースでは、妄想等の病状が固定化し、医療につながることはもちろん、病識をもたせることも非常に難しくなっていきます。

一方で、はっきりとした病識はなくても、本人が病気による生きづらさを感じていたり、生活面での不自由を感じていたりすることは、多々あります。たとえば、きちんと食事がとれていない、眠れていない、保清(入浴など)ができていないなどです。ひきこもりがちのために、精神疾患以外の身体の不調(虫歯や皮膚疾患など)を放置し、悪化させている方もいました。

また、弊社の経験では、本人が自分なりに病状を調べて「精神疾患なのではないか」と感じていたものの、家族との折り合いが悪いために、「親から病院に行けと言われたが、親の言うことは聞きたくない」と、受診を拒否している方もいました。

こういったケースでは、家族が精神疾患に対する偏見や差別意識をもっていることも、少なくありません。治療や支援が必要な方に対して、「早く自立してほしい」「人並みに働いてほしい」などとせかしてしまっている場合もあります。

まずは治療(診断)を受けることが第一であり、そこから、適切な支援を受けられるようにすること、自立や就労はその先の話であることを、ご家族にも理解していただきたいと思います。

なお、こちらの記事(精神科病院の入院制度、医療保護入院は難しい | (株)トキワ精神保健事務所 (tokiwahoken.com)でも述べていますが、今は本人同意による「任意入院」が基本となっていますので、入院治療を受けることは、以前にも増して難しくなっています。では家族として、どのように対応していけばよいのでしょうか。

精神科受診を拒否する家族への対応、医療につなげるには

家族が「悪者」になる覚悟があるか

精神疾患であるか否かの確定診断は医師が行うものですが、本人に病識がないという精神疾患の特性上、初動で受診の必要性を判断できるのは家族しかいません。つまり本人を説得して医療につなげるためには、大前提として、家族の誰かが「悪役」になる覚悟が必要です。

では「悪役」とは、具体的に何をすればいいのでしょうか。

・本人に対して「病気だ」と伝える

・本人が治療を拒んだ際に、「家族の判断として治療が必要だと考えている」ことを告げる

・同居や経済支援が限界ならば、そのことを本人に告げ、支援者にも頭を下げて協力を仰ぐ

弊社への相談では、最初から「(判断も責任も誰かに丸投げして)何とかしてもらいたい」との姿勢で来られる家族がいますが、このような重要な話を、第三者(行政職員や主治医、支援者など)にやってもらおうとしたところで、誰もやってくれないのが現実です。

たとえば行政や病院に相談した際に、家族にとって壁となるのが「本人の意思」という言葉です。「治療を受ける気のない人を病院に連れてきたところで、治療効果は上がらない」「人権侵害になる」という理屈で断られてしまうのです。

そう言われて、あなたは家族としてどのように思いますか? 「たしかにその通りだ。本人が望んでもいないのに入院なんて、かわいそうだ」……そう思われるなら、引き続き、家族で面倒をみていくしかありません。

これは、「人権」をどう捉えるかという問題でもあります。そもそも重篤な精神疾患の方や、長期にわたり一歩も外に出ない、家族とも顔を合わせないようなひきこもり生活を続けている方に健全な判断能力があると言えるでしょうか。自分が病気であることすら認識できていない方に、将来を左右する判断や決断を任せ、「本人が決めたことだから」と責任まで背負わせることが、本当に「人権の尊重」と言えるでしょうか。

本人を助けたい、命を救いたいと思うなら、家族が覚悟を持つことです。そしてそれを、本人だけでなく、関わってくれる専門家たちにもきちんと伝えることです

具体的には、行政や病院から「本人の意思」について持ち出されたら、「今の本人に健全な判断能力があるとは思えない。命を助けるために、家族としては、入院治療を受けさせたいと思っている」「本人が理解できず拒否しても、親の判断で、お願いしたいと思っている」とはっきり言うことです。

家族の真剣な対応が事態を動かす

弊社の経験からお話しますが、行政に相談して何とか訪問支援を取りつけて自宅に来てもらったのに(あるいは、本人を病院に連れて行き受診までこぎつけたのに)、肝心なところで他人任せの親御さんがいます。

たとえば、「家族ではこれ以上のサポートはできないから、専門の治療を受けてほしい」というような、家族がきちんと伝えるべき重要な話を、「保健所の方が(病院の先生が)こうしたほうがいいと言っているんだから、言うことを聞きなさい」と言うにとどまり、絶対に「悪役」をやろうとしません。家族までが及び腰では、専門家も積極的に関わりをもつ根拠を失い、「本人の意思」に委ねるしかなくなります。

「本音を伝えたら、本人から恨まれる」「殺されるかもしれない」と恐れる親御さんもいますが、大半のケースでは、本人が医療や福祉の支援を通じて社会につながることができれば、恨み辛みの感情は時間が解決していきます。他者から理解されたり認められたりしながら、自立に向かって進むことで自信につながり、家族に対する思いも含め、考え方や受け止め方も少しずつ変わっていきます。

むしろ弊社の経験では、親から中途半端な情をかけられた患者の方が、いつまでも親の線を捨てきれずにいることが多いです。たとえばある親御さんは、私たちの前では「もう二度と子供と一緒に暮らす気はない」とまで言っていたのに、子供の前では「またいつか一緒に暮らせるかもしれない」「愛情がなくなったわけではない」などと言葉を濁して伝えました。

本人は医療につながることができましたが、重要な場面で親御さんが「悪役」から逃げたばかりに、何年経っても「実家に戻りたい。親とは行き違いがあっただけで、誤解を解きたい」などと言います。親御さんが同居を拒否していることを伝えても、「家に戻れないようにトキワが自分のことを悪く親に伝えている。金儲けの道具にするな。親を連れてこい」などと言い続けています。

医療につながったあとに、家族が本人とどのような関係を構築していくかは、それぞれのご家庭で考えがあるかと思います。しかし、今までできなかったこと(医療につなげる/施設入所を促すなど)を実行しようとする際には、家族が本音を伝えない限り、第三者がいくらその考えを代弁して伝えたところで、本人の心は動きません。ご家族には今一度、このことをご理解いただきたいと思います。

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