大人の発達障害や知的障害を精神科医療につなげる

精神疾患,相談ノウハウ

子供はすでに成人していますが、うまく社会に適応できず、現在はひきこもりの生活を送っています。実は発達障害があるのではないか……と疑っていますが、医療につなげることは可能でしょうか?

大人になってからの、発達障害や知的障害の診断

このようなご相談は少なくありません。

実際に弊社が携わっている30代以降の対象者の中には、「本当は幼少期から発達障害(または知的障害)があったのでは」と感じられるケースが散見されます。とくに発達障害に関しては、昔は今ほど積極的な診察・診断が行われていなかったために、見落とされてきたケースもあるのではないかと思います。

しかし家族からよく話を聞いてみると、現実として困っているのは、本人が「発達障害か否か」ではなく、別のところにある場合が多いです。たとえば、「長期にわたってひきこもっていること」や、「二次障害としての精神疾患(強迫性障害、不安障害、摂食障害、パーソナリティ障害など)による問題行動」などです。

仮に今、発達障害(知的障害)の診断を受けても、軽度であればなおのこと、受けられる公的支援は限られています。それよりもまずは、生活をままならなくしている要因(二次障害としての精神疾患)の治療に取り組むことが先決と言えます。

なぜこのようなことをお話するかというと、親御さんが「発達障害(や知的障害)」にこだわるあまりに、自分の思うような診断を出してくれる医療機関を探して転々としてきた、という事例がかなりあるからです。結果として、子供を長期ひきこもりのまま放置してしまったり、二次障害の治療がおろそかになったりしています。

このことから弊社では、本人がある程度の年齢になっている場合には、「発達障害や知的障害」の診断にこだわるよりも、まずは目の前の要因について取り組むことが重要であり、また、そのほうが精神科医療にもつながりやすいと考えています。

大人の発達障害や知的障害で入院は可能か

二次障害が悪化し、家庭では対応が難しくなっています。精神科病院に入院の相談をしましたが、「治療効果は期待できない」と言われました。入院治療は望めないのでしょうか? 施設への入所を検討すべきでしょうか?

弊社でも、軽度の発達障害(知的障害)の入院治療をサポートする機会が増えていますが、相談に行った精神科病院から伺うのは、発達障害は「本人の特性であり病気ではない」「器質的なものが原因であり、社会でトレーニングして修正すべき」、知的障害は「障害の特性として説諭や理解が難しいことから、治らない」という本音です。

つまり、「入院しても治療効果が上がらない」「入院治療には馴染まない」ことから、【(措置入院レベルの救急以外は)入院治療を受け入れない】という考えが根底にあります。

他にも医療機関からは以下のような説明があります。

・精神科は薬物治療が主流であり、多くの場合、服薬により身体機能を弛緩させることになるため、以前できていたこともできなくなる場合がある。

・本人に衝動性や行為障害(暴力など)がある場合、入院治療で改善したとしても、退院して拒薬や通院拒否などがあれば元通りになってしまい、入退院の繰り返しにしかならない。

このように言われて、入院治療を受けさせるべきか躊躇している家族も少なくありません。

しかし自傷他害行為や、近隣への迷惑行為があるなど命と身体にかかわるほどの状況ならば、医療的介入により興奮状態にあった環境から離れてクールダウンの期間をもうけることは有効です

病院であれば、24時間みていただける安心感もあります。精神疾患に限らず介護の現場などでも、患者自身や家族の一時的な休息のために入院を利用する「レスパイト入院(休息入院)」への理解も広がっています。

また、入院治療によって処方薬の調整も含めて適切な医療を受けることができます。短期的な視点では思うような効果がみられず、結果的に入退院の繰り返しになってしまったとしても、その都度、医師や看護師、ソーシャルワーカー、臨床心理士など各職種の方に介入してもらうことは、社会から孤絶してしまうよりはるかによいはずです。

家族も長期的な視野を持ち、「規則正しい生活の習得や、偏った思考を修正して社会性を身につけてほしい」と望んでいることを病院側に伝えていきましょう。同時に家族も、本人対応について改善すべき点を専門家から学ぶことができれば、入院治療は決して無駄にはなりません。

発達障害や知的障害で入院治療を受けたい場合

入院治療までの道のりとしては、本人が18歳を過ぎているならば、まずはかかりつけ医に相談しましょう。かかりつけ医がいない場合は、それまでに関わってくれた行政機関(障害福祉課など)や、社会福祉協議会、もしくは母校(自立支援学校)に相談して、医療機関を紹介してもらいます

医療機関の目星がついたら、受診(入院)の相談に行きます。医師から、「入院したところで、(発達障害や知的障害は)治りませんよ」と念押しされることがありますが、日常生活がままならないことを伝え、理解を仰ぎましょう。

精神疾患の二次障害がある場合は、その詳細をきちんと伝えます。専門家に本人および家族の現状を分かっていただくためには、エビデンス(証拠・根拠)が重要です。本人の様子や問題行動を、音声・画像・映像などで記録し、相談の際に持参するとよいでしょう。

退院後、グループホームなど施設入所を希望する方もおられると思います。入居の打診をしたときに必ず確認されるのが、「衝動性や行為障害の有無」です。これらがある方は、施設も受け入れに消極的です。施設入所を希望する場合は、入院中から病院側に家族の状況を理解してもらえるよう努め、ソーシャルワーカーと連携して施設を探しましょう

なお自治体の運営する終生保護の施設もありますが、重度の障害をもつ方が幼少期から入所しており、軽度の方が精神障害を併存して障害が重くなっても、空床がないのが実情です(現在では、そういった施設ですら「地域共生」の名目のもと減少しています)。

公には誰も言いませんが、軽度の発達障害や知的障害はとくに「親が元気なうちは親が責任をもって対応する」ことが大前提とされています。そこを打破するには、家族も、現状や課題を丁寧に説明し、専門家(専門機関)と根気よく交渉していく必要があります

 

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