わたしたちの理念

家族と本人、それぞれを守る

精神障害者移送サービスを堂々と社会に告知して始めた当初は、「そんなことはできるわけがない。精神病院に連れて行くこと自体、人権侵害だ」と多くの批判を受けました。中には、誹謗中傷や嫌がらせもありましたが、そのほとんどが、口先だけ、表面を触っているだけの、結局は事態を何も動かせない人々によるものでした。

2011年7月7日、厚生労働省は、新たに精神疾患を加えて五大疾病にする方針を決めました。精神疾患の患者数については、1990年(平成2年)の約200万人から2008年(平成20年)には323万人に急増し、2011年(平成23年)は320万人と依然300万人を超えています(厚生労働省の調査による)。

若い世代では、「発達障害」「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」といった病名を耳にすることが増え、中高年層では、精神疾患による労災の申請が1000人を突破し、労災認定件数は497件(平成26年度)と、過去最高を記録しています。

他にも、ひきこもりやうつ病、自殺など問題は多岐にわたり、実社会においては、国が把握している数字よりもその層は幅広いといえます。

同時に、新潟少女監禁事件や大阪教育大付属池田小事件、最近では兵庫県洲本市で起きた5人殺害事件、長崎県佐世保市の同級生殺人事件など、精神疾患の患者とその家族の問題を象徴するような事件が続発しています。

犯行時未成年のケースでも、酒鬼薔薇(サカキバラ)事件、佐賀バスハイジャック事件、奈良母子放火事件、長崎男児誘拐事件などが例に挙げられるように、「行為障害」「アスペルガー障害」といった診断名での精神鑑定の結果が出ています。

中には、事件前は精神科への入通院歴がなく、事件後の精神鑑定で精神疾患と診断されるケースも多々あります。しかし、報道などで被告の生い立ちや家庭環境を知る限り、専門家でなくとも、事件を起こしかねないサインや言動があったと認識できることが多いのも事実です。

そのたびに、「保護者はわかっていただろう。なぜ、こうなる前に対処しなかったのか」と議論が起こるのも当然のことです。また、被害者の無念や、遺族の方のやり場のない怒り、哀しみを思うと、言葉もありません。

そして、このような事件が起こるたびに、「いつ自分が(我が子が)事件に巻き込まれるか分からない」と不安になる人々がいる一方で、他人事とは思えない家族がいるのです。

わたしたちへの依頼も広範囲かつ多岐にわたり、近年は、相談だけで本来の業務に支障をきたすほど増加しています。そして家族は、「なんとかしたい」と思い、あちこちの専門機関に相談に行ってもいますが、解決にいたらず、混乱していることがうかがえます。

わたしたちは長年、「精神障害者移送サービス」や「本気塾」といった業務を通じて、精神疾患の患者さんを抱える家族に寄り添い、ソーシャルの立場から問題解決に取り組んできました。

そのモットーは、常に現場に赴き、本人と真摯に向き合うことにあります。

説得移送の現場では、実際に家庭に行き、最も危機的な状況と向き合ってきました。
患者さんがぶじに精神科医療につながったあとは、入院治療を基盤としたうえで、定期的な面会を通じて人間関係を結びます。入院という現実や家族へのやり場のない怒りがわたしたちに向けられることも多々ありますが、その都度、本人の認識の偏りを正すよう対話を重ねていきます。

自立支援施設「本気塾」で生活をする場合も同じです(注:現在は塾生の募集を行っておりません)。小さなものから大きなものまで、本人がトラブルを起こすことなど日常茶飯事ですから、家族の代わりに謝罪にも行けば、警察に出向いたことや裁判に出廷したこともあります。その度にわたしたちは、本人と向き合うきっかけをもらったと捉え、人としての絆をより強固にすべく、対峙してきました。

それでも時には、何度も同じ過ちを重ねられ、家族同様「殺される」という思いを体験したこともあります。家族同様の立場で、いや、それ以上に魂をこめて本人と接しているからこそ、出せる結論があり、できる対応があるのです。

そして2014年4月、改正精神保健福祉法が施行されました。国(厚労省)は、「入院医療中心から、地域生活中心へ」を謳い、制度上も、保護者(家族)が、患者に治療を受けさせる義務等の責務はなくなりました。しかし現実には、地域で精神障害者を支える体制が整っているとは言いがたく、とくに対応困難な対象者ほど、どの専門機関からも曖昧な言葉で門前払いされるような事例が増えています。以前にも増して家族が熱心に動かない限り、専門家や専門機関の力を借りることすらできないのです。

精神科医療をとりまく制度そのものが矛盾をはらんでいる以上、すべての決断は「家族」に任されていると、わたしたちは考えてきました。「本人」と「家族」それぞれを守ることが、これ以上悲惨な事件を起こさない、犠牲者を出さないことにつながるのではないか。本人の生命や人間としての尊厳を守るためにも、家族が決断すべきことがあるのではないか。そのような思いから、「長期入院」の必要性を訴え、業務として取り組んでもきました。わたしたちは、患者さんだけでなく家族の安全も求めて問題解決をしていくと同時に、双方の抱える悩みや苦しみの実態、制度上の不備などを、広く世に訴えていかなければならないと考えています。

精神保健分野は、激動の流れを迎えています。そんな時代に、当事者の方々が、いかに不安な思いで日々を過ごしているかは、想像にかたくありません。

しかし助かる道は、あります。

わたしたちには、問題解決のための知識、経験、テクニックがあります。
安心して過ごせる毎日を手に入れるために、真剣にこの問題に向き合おうという方のためには、わたしたちももてる能力を総動員し、全力を尽くします。

このような問題を抱えている方々には、今は暗闇の中にあっても、一条の光もないわけではないということを、心に留めておいていただければと思います。